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ROTATION



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As Easy As You Make It
Imagination
Sailor-Sailor
Yesterday, Today And Tomorrow
Margarita
Bad City
The Tourist
I Should Have Known Better
Lonely Man

© CBS/SONY Inc.

 

 1989年11月7日の朝、たまたま出張中だった僕は京葉線の電車の中にいた。東京方面の通勤電車はかなり混んではいたが、いまのラッシュと比べたら、まだそれほどではなかったように思う。特にすることも考えることもなく、しばらくぼんやりと吊革につかまっていたが、そのうち何気なく隣の人が読んでいる新聞の記事が目に入った。

 「松田優作 膀胱ガンで死去」

 体が凍りつき、頭の中は真っ白になった。
 きっといい加減な誤報記事だ。いや、いくらデタラメなスポーツ紙でも、作り話で死を報じたりはしないだろう。これは事実なのだ。でも少し前にテレビドラマに出ていたのに・・・。虚ろな押し問答をひとり繰り返す。頭の中の白いスクリーンには大好きだった優作の姿がフラッシュバックしていた。

 一番好きな映画は「蘇える金狼」だった。
僕が中学校の時にテレビのロードショーで見た最初の優作だ。かっこよかった。大人の世界だった。うだつの上がらないサラリーマンを装った主人公が、綿密かつ大胆な計画を実行して大金を手にする、わかりやすくて渋いストーリー。風吹ジュンが可愛かった。アクションシーンもさることながら、哀しく気狂いじみたラストシーンは子供心に深く濃い刻印を残した。
 「野獣死すべし」は、さらに狂気の世界だ。 主人公のイメージにあわせて、減量した上に奥歯まで抜いた優作は本当に怖くて、鹿賀丈史と一緒に怯えながら2時間を過ごした。当時の僕にはほとんどストーリーは理解できず、ただただ気味の悪い空気感と優作の姿だけが印象に残った。
 「家族ゲーム」や「それから」では、アクション抜きの性格俳優としての優作を見せてくれた。森田芳光監督独特の"間"の演出を、過不足なく絶妙のバランスで演じ切っていた。「陽炎座」も、「嵐が丘」も、常に優作の演技は常軌を逸していて、それが彼の新しい魅力になっていた。
 そして「ブラックレイン」。うれしかった。 ハリウッドスター相手に一歩もひけを取らない存在感。マイケルダグラスと高倉健に挟まれて登場するラストシーンは、完全に優作のための映像になっていた。リドリースコットのアメリカ的演出にあわせたオーバーアクションが気にはなったけど、本物の国際俳優誕生を十分に予感させる映画だった。間違いなく次のアメリカ映画出演があると確信し、作品を心待ちにしていたのだ。それなのに・・・。

 あれから12年が経った。でも僕の中の松田優作は全く色褪せることがない。同じように優作を忘れられない人たちが、一端のクリエイターになったようで、バラエティ番組のネタになったり、写真展が開かれたり、ゲームのキャラクターになったりするようになった。
 そんなブームがやってきて初めて知ったことがある。みんなが一番好きな優作はどうやら、僕と同じように「探偵物語」だったようなのだ。
 中学生の頃にテレビで見たこのドラマは本当に粋で洒落ていて、当時マイブームだったにも関わらず、学校では誰も話題にしてくれなかった。だからごく一部の人にしか受けなかったマニアックな作品なのだと思っていたのだが、意外にメジャーなドラマだったらしい。

 この作品は後にも先にも同じような作品がひとつも存在しない、テレビ史上に残る名作だと思う。サングラス、革ジャン、クルマ、拳銃といった典型的なアイテムをできるだけ抑えて作り上げた究極のハードボイルド。優作ひとりではなく、周りの人たちがすべて同じテンションでアドリブ全開の演技を見せてくれる、楽しくてワクワクできるドラマだ。
 「傷だらけの天使」とか「俺たちは天使だ」とか、同じようなトーンで作られたドラマはあったけど、とても比べものにはならない。ハードボイルドの濃さが違うのだ。

 カッコよくてどこか飄々としたSHOGUNの音楽もぴったりはまっていた。オープニングテーマの「Bad City」。エンディングテーマの「Lonely Man」。最初のフレーズを聴いただけで、あの粋な映像が脳裏に蘇ってくる。
 これらの曲を収録した「ROTATION」は、一級のスタジオミュージシャン集団が作っただけあって、曲・アレンジ・演奏とも抜群。日本人が作ったとは信じられないほどイカしている。「探偵物語」を知らない人にもぜひ聴いてほしいアルバムだけど、やはり僕にとっては優作の形見。いつまでも彼を身近に感じているための大切なアイテムだ。

 松田優作。
 彼を超える役者と「探偵物語」を超えるドラマは、いったいいつやってくるのだろう?

【2002.4.1】

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