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BOLERO


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BOLERO
RAPSODIE ESPAGNOLE
DAPHNIS ET CHLOE---Ballet Suite No.2

※1968年は録音年。発表年は不明。
© TOSHIBA EMI LIMITED
 

 大学時代、毎晩のように語り合った友人がいた。お互いにとりわけ話し好きということはなかったと思うのだが、2人きりになるとどういうわけか話が尽きることがなかった。話の内容はあえてここで紹介するようなものじゃない。音楽とか映画とかスポーツとか漫画とか女の子の話とか---かなり堅い話題もあったように思うのだけどよく思い出せない---その程度の話だ。

 いつものようにテレビを付けっぱなしにしながら話をしていると、深夜の映画番組がはじまった。「愛と哀しみのボレロ」というフランス映画だった。
 恐ろしく長く複雑な話だったので、ほかごとをしながら見ていた僕たちにはほとんど内容を理解することができなかったのだが、クライマックスのコンサートのシーンになると、僕たちは話をやめてしばらく画面に見入ってしまった。ラヴェルの「ボレロ」とともに、美しいバレエダンスが延々と続く。
 僕たちは映画をちゃんと見ていなかったことを後悔し、その夜から「ボレロ」のファンになった。

 早速中古レコード屋へ「ボレロ」を探しにいき、そこで見つけたのがANGEL BEST CLASSICS 1800というシリーズのシャルル・ミュンシュとパリ管弦楽団だった。
 ご存じの方には言うまでもないが、この曲は同じリズムと旋律の繰り返しでできている。最初から最後までの長大なひとつのクレッシェンドに従いながら、いろいろな楽器がいろいろな組み合わせで、ひとつの旋律を繰り返していくのだ。ミュンシュのボレロは、この曲の個性を実にわかりやすく表現していた。
 限りなくゆったりとしかも完璧に刻まれるリズム。信じられないような後ノリのブラスセクション。終盤に向かうにつれてこらえきれないように速まっていくテンポ。同じリズムと旋律が17分間続くのに、クラシックをほとんど聴いたことがない僕を全く飽きさせない。

 その後、有名なアンドレ・クリュイタンスのレコードも聴いてみた。キビキビとしたすばらしい演奏だけど、ミュンシュ以上に感じさせてはくれなかった。いろいろなボレロを聴くごとに、ミュンシュのボレロは僕の宝物になっていった。
 ボレロはどの演奏もたいてい15分そこそこで終わるのにミュンシュは17分もかかっている。ひょっとしたらミュンシュのボレロは、ラヴェルの作品とは違うものになってしまっているのかもしれない。しかし、ボレロはもともと前衛的な作品だったのだし、この曲が持つ個性をより極端に表現するのは決して間違ってはいないと思う。何しろクラシックを聴かなかった僕に聴くきっかけを与えてくれたのだし。

 このエッセイのために久しぶりにボレロを聴いてみて思い出した。このレコードを聴くのに困ることがひとつあるのだ。曲のはじめに音が小さいからといってアンプの音量を上げすぎると、最後には近所から苦情が来るほどの大音量になってしまう。かといって音量が小さすぎると最後まで盛り上がらずに終わってしまう。レコードを聴く人のことを考えて作曲するわけではないし、仕方ないのだけど、これが意外にやっかいなのである。

【2002.3.7】

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