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ENCONTRO COM A VELHA GUARDA

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SAUDADE DO PASSADO
SALARIO MINIMO
FELIZ E QUEM SABE ESPERAR
INGRATIDAO
CLARA DE OVO
E POR AQUI
JUIZO FINAL
CONCURSO PARA ENFARTE
EU VOU SORRIR
RELIQUIAS DA BAIHIA

※1976年は録音年。日本での発表は1980年。
© SHINSEIDO Co, Ltd.
 

 「ブルースは暗い音楽だと思っていた」と書いたことがある。ブルースに限らず、実際に聴いたこともないのに勝手にイメージを持っていた(しかもそれが間違っていた)音楽は、考えてみると結構たくさんある。

 特に大きな誤解をしていた音楽のひとつに"サンバ"がある。
 幼い頃から長きに渡って"サンバ=リオのカーニバル"というイメージは僕の頭の中に深く根を張っていたし、日本ではいつの頃からか地方のお祭りにまでサンバカーニバルのアトラクションが登場するようになった。サンバという音楽はアップテンポで脳天気な、カーニバルでダンスを踊るための音楽だというイメージが焼き付いてしまったのも無理はないと思う。たぶんほとんどの日本人は同じようなイメージを持っているのではないだろうか。

 サンバはいうまでもなくブラジルの民族音楽なのだけど、実はすべてのサンバが同じではない。土着のサンバの他に、サンバをベースにしたポピュラー音楽があって、世の中に知れ渡っているのはたぶん後者の方なのだ。日本に置き換えてみれば話は簡単で、いくら「ワダツミの木」が売れたところで本物の奄美民謡が売れるわけではないし、それを耳にする機会などほとんどない。民族音楽はそのままではヒット曲にはならないのだ。
 しかし幸い1970年代に起こったサンバ・ルネッサンス的な運動のおかげで、そして商業的なワールドミュージックを含んだ民族音楽志向の高まりのおかげで、僕たちはいま、本来のサンバを聴くことができるようになった。

 「すばらしきサンバの仲間たち」という邦題がつけられたこのアルバムは、"エスコーラ"でサンバ活動を続けてきた最高のミュージシャンたちによるオムニバス版だ。
 エスコーラとは、サンバカーニバルのパレードに参加するために作られた黒人たちの組織で、単に音楽を演奏するためのチームというだけでなく、地域の共同体でもある。サンバが生活の一部になっている人々の組織なのだ。そして長い間サンバを守り育ててきた人たちの本物の音とリズムは、僕が持っていたサンバのイメージを遙かに超越したものだった。
 脳天気、派手、大きな音、アップテンポ・・・、僕の持っていたイメージはすべて×。楽器の絡み合いとうねるリズム、どこか切ない歌詞とメロディ、ソウルフルなヴォーカルとコーラス。やはり黒人の創り出した音楽なのだということをしみじみと感じる。
 もちろん見たことはないのだけど、ブラジルには、日本の夏の空に似た馬鹿みたいに明るいブルーが広がっているのだと思っていた。でもひょっとしたら日本の青空よりもっと深くて憂いを含んだ色をしているのかもしれない。このアルバムを聴くと、音楽だけではなく、想像していたブラジルの風景がまるごと間違っていたような気がする。

 それぞれの曲の邦題を順に読んでいくだけでも面白い。実際に曲を聴かなくても、サンバがただ明るいだけの音楽ではないことぐらいはたぶん理解できるだろう。「懐かしいあのころ」「最低賃金」「信じる幸せ」「恩知らず」「卵の白身」「こんなもんさ」「最後の審判」「大食いコンクール」「笑ってやるさ」「素晴らしいバイーア」。そういえばブルースのタイトルにもこんな感じのものがたくさんあった。このアルバムをレイチャールズに聴かせたらきっと「これはブルースだ」と言うに違いない。

【2002.5.17】

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